「おい、良太、仕事はいい加減に切り上げろ。わかったな」
ドアを閉める寸前、工藤はそう念を押して出て行った。
「ちぇ、何だよ、勝手なこと言いやがって。あんたこそ、そのうちどっかでのたれ死んだって俺は骨なんか拾ってやんねーからなっ!」
ひとしきり吼えまくると、誰もいなくなったオフィスで、良太はひとり黙々と仕事を続けた。
いい加減に切り上げろなどと言われればかえって反発してしまう自分に呆れながらも。
そういえば、とふと芽久のことを思い出して良太はキーボードをたたく手を止める。
やっぱり岸が何か危害を加えたりしないかと心配してガードしてただけなんだ。
ってことにしといてやるか。
いつも工藤の前に女が現れるたび、今度こそ行ってしまうのかな、とちょっとは覚悟を決めるのだけど。
あまり往生際はよろしくないからな、俺。
痛いよ、ここが。
良太は胸に拳を置いてみる。
「さてと、そろそろ切り上げるか」
時計の針はもう今日を過ぎようとしていた。
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