残月109

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 美味いものを食べに行くと聞けば、条件反射で良太はパソコンを閉じた。
「まあ、車で五分くらいか」
「ちびたちにご飯やってきますから、ちょっと待っててください」
 良太はそそくさとエレベーターに向かう。
「フレンチなんて、工藤にしては珍しいと思ったら」
 見るからに欧米系の顔をしているくせに、工藤の好みはコッテリ系ではなく和風で、日本酒をちびちびやる昭和のオッサンスタイルだ。
 たまに行く、軽井沢のイタリアンの店は、平造の顔なじみがシェフだからだ。
 会社の前でタクシーを拾い、カミーユ、という看板の真新しいレストランの前で二人は降りた。
 大通りから一本入ったビルの一階に入るカミーユは、テーブル席とカウンター席のあるこじんまりとした店だった。
「よう、やっときたか」
 二人を出迎えたのはスマートな紳士だった。
「オープニングに来いっても顔をみせないし」
「京都に行ってたんだ」
「ったく相変わらず仕事の鬼だな」
「うちの広瀬良太、オーナーの夏川だ」
「広瀬です」
 名刺交換をして、テーブル席に案内される。
「ん?」
 良太が座ると、夏川がまじまじと良太の顔を見た。
「あ、何か?」
「いや、どこかで………、あああ、君! あのドラマの子だろ? CMも出てた? 二年くらい前? 俺、その頃ドラマで可愛い擦れてない俳優探しててさ、あのカフェラッテのCMみて、この子だ、って思って、何度も会社に電話したんだぜ? そしたらニューヨークに行ったとか何とかってさ、工藤は電話してもとりあわねぇし」
 いきなりまた、良太は黒歴史を持ち出されて、たじたじとなる。
「何、この子プロデューサー? って何だよ。おい、工藤、あんとき俺、死にもの狂いで探してたんだぞ?」

 


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