残月11

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 翌日、MBCのドラマ『からくれないに』の制作発表は都内老舗ホテルで行われた。
 ミステリー作家小林千雪原作の老弁護士と事務所の若手弁護士が活躍する人気シリーズで、既に何作かが映画やドラマ化されている。
 実は別のドラマが決まりかけていたところで、諸事情によりそのドラマがとん挫し、局側では急遽、開いた穴に別のドラマを持ってくる必要が出てきた。
 そこで白羽の矢が立ったのが、少し先に予定されていた『からくれないに』で、五回ほどの連ドラに仕立ててしまった、というわけだ。
 何分、各局が力を入れるという秋ドラマで、局にとっては下手な作品は持ってこられない上、そこそこ視聴率が取れて尚且つ失敗はないだろうというシロモノが必要だったのだ。
 制作発表には、主演である老弁護士御園生役の端田武、事務所の若手弁護士海棠役、大澤流、ゲストにはベテラン女優の山内ひとみ、前回青森県警のキャリア鮎川役で登場し、今回は異動で神奈川県警へやってきたという設定で、青山プロダクション所属女優の中川アスカ、さらに犯人に殴られて被疑者にされるリーマンという、ドラマのキーマンとして出演している本谷和正が登場した。
 連ドラでもあり、仕上がりも上々と聞いた局のプロデューサーは機嫌がよく、珍しく顔を見せた工藤にニコニコと頭を下げている。
 実際、ドラマの中でのキーマンだった本谷は、ドラマの出来不出来に関わるキーマンでもあったが、最初は『田園』の時の竹野のような毒舌ではないにせよ、それこそ大澤に文句を言われたり、監督にも心配されたりしたものの、何とかしり上がりに調子を上げて、同時にドラマの方もしまりが出てよくなった。
 最近放映されている本谷の清涼飲料水のCMも評判がよく、主演の大澤が巧みな話術で会見を盛り上げている中、本谷への質問もよく飛んだ。
 今回の役作りなどの質問に、真摯に真面目に答えたあと、大澤が「いやあ、実は、この人でほんとに大丈夫かって、顔合わせの時思ったんですよ」などと言い出したので、ちょっと会場がざわめいた。
 良太がおいおい、と思っていると、大澤は、でも、と続けた。
「それが撮影が進むにつれて、こう階段上がるみたいによくなっていくんですよ。いやあ、若いって、いいですよね」

 


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