残月13

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「桧山の家の撮影はうまくいきそうか?」
 良太の心のブツクサなどお構いなしに工藤が聞いた。
「今日、この後、桧山邸にスタッフと伺うことになってます。桧山さんが案内してくださるってことで」
「そうか。任せたぞ」
「これからフジタですか? 送りましょうか?」
「いやいい。お前は桧山の方を頼む」
 それだけ言うと、工藤はたったか出て行った。
 鬼だって、一言くらいあると思うぞ、俺は。
 赤鬼なんかめちゃ可愛いじゃん、工藤と比べたら。
「良太、あれ、工藤さん、もう帰っちゃった?」
 化粧室から出てきたアスカが聞いた。
「フジタ自動車、行きました」
「もう、お茶くらいすべきじゃない? 可愛い社員ががんばってるってのに」
「フジタは大事なスポンサーですからね。工藤さん、CEOに気に入られてるから、ちょいちょい呼び出されるんですよ」
 何か携帯でずっと話していたアスカのマネージャー秋山がそう言いつつやってきた。
「良太ちゃん、時間あればお茶一緒にどうかな」
「あ、そうですね、まだ余裕なんでご一緒します」
 秋山に誘われて良太は破顔した。
「ひとみさん、横浜で映画のロケですって。さっき須永さんにせかされて行っちゃった」
 アスカはチーズケーキを頬張りながら言った。
「忙しいですね、ひとみさんも。あ、これ、美味しい」
 良太はティラミスを一口食べて、満足そうに顔をした。
 三人はラウンジに降りると、早速ケーキフェアのケーキセットを頼んだ。
 秋山もモンブランを口にして、「甘みもきつくないしこれは美味しい」と頷いた。
「美味しいもの食べてまったりしてる時が一番幸せ!」
 アスカはペロリとケーキを平らげ、三個までOKというセットメニューにのっとり、次のケーキを取りに立とうとした。
「ケーキは一つまでです」

 


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