すかさず秋山のけん制が飛ぶ。
「いいじゃない、あと一つくらい」
睨み付ける秋山の視線を無視して、アスカはチョコレートのトルテを持って戻ってきた。
「俺も行ってきます」
ケーキを取りに立った良太の背中を目で追って、「よかった、良太、元に戻って」とアスカが呟いた。
「さっき本谷が二人に近寄ってったから、何ごとと思ったけど、あの子もなんか吹っ切れたような顔してたわね」
アスカはケーキのことから話をすり替えるように、本谷の話題を持ち出した。
「そうですね、やはり事故の時工藤さんが良太につきっきりだったとか、そういうことで、何か悟ったのかも知れませんね」
「ああ、そうね。SNSで流れてた工藤さんの必死怖い表情、あれ見たらね~、好きな人の行動だったら、やっぱわかっちゃうかもね」
「まあ、推測ですが。今回のドラマの方でも本谷くん、よく仕上がってましたから、また注目を浴びるはずですし、イロコイにうつつを抜かしてる暇もなくなるかもしれませんよ」
「あ、ずるうい、二個も持ってきた」
秋山が冷静に判断を下している間に、アスカは良太の皿のケーキにもう目を移している。
「だって、三個までOKだし」
「あたしが二個しか食べられないってわかってて、少しは遠慮したらどうなのよ」
「ケーキは遠慮なんかできません」
「ちょっと半分頂戴」
アスカが良太の皿にフォークを差し出した。
「やですよ」
良太は咄嗟に皿を避ける。
「いい加減にしなさい。ここはオフィスじゃなくて公衆の面前です」
人気女優と会社の司令塔とさえ言われている者が園児のようなやり取りをしているのを見て、秋山も呆れてびしりと言い渡した。
二人とも眉根を寄せる秋山を見て、さすがにちょっと居住まいを正して、静かにまたケーキを食べ始めた。
アラサーとか、とても人に言えたものではない。
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