残月28

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「千雪さん、こないだ、警察に対してメチャ辛らつだったでしょ。俺ももちろんふざけるなって思ってたけど。でも前に容疑者扱いされたって聞いたからきっとそのせいもあるなって」
 九月に工藤が冤罪で犯人にされるところを千雪が真犯人を突き止めた事件の時のことを良太は思い出して言った。
「まあな。初動捜査で見当はずれのことやりよって、犯人なんか突き止められるわけがないやろ」
 また千雪の目がすっとクールに光った。
 そこへ今度は男性のスタッフがクリームあんみつを運んできたので、二人は口を噤む。
「ま、食べよや」
 とりあえず二人とも無言でクリームあんみつを平らげ、お茶をすすったところで、千雪が徐に話し始めた。
「俺がたまたま締め切りに追われてバックレた時のことや」
「へ? バックれちゃったんですか?」
「その頃ずっと、俺は携帯とか嫌いやから持ってなかったんやけど、京助のやつが勝手に渡してよこしたからほんまは持っとったんやけど、編集にはもってないていうことにしとってん」
 良太は苦笑した。
「それ、編集さん信じてました?」
「まあな。俺は変人で通っとるし」
「はあ」
 やはり詐欺だ、と目の前の美貌の主を見て良太は密かに思う。
「その頃、かなり極端な恰好しよったから、なんや、頭がもじゃもじゃの黒縁メガネにジャージの上下て、トレードマークになっとったな」
「面白がってたんでしょ」
「まあな。色とか絶対あり得へん組み合わせやってみたりとか」
 良太は笑った。
「とにかく、バックレてたいうても、女性誌のエッセイで芭蕉を題材にしよ思とったから、軽井沢にふらっと行って芭蕉の句碑訪ねたり、そないな時や、東京で事件が起きた」

 


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