残月3

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 俳優をどやしつけるなんぞ、下手をすると、いや充分に、今やパワハラ、コンプライアンスがどうの、そんなこともよくわかっていて、あえて怒鳴り散らす工藤である。
 そんな工藤に猛獣遣いのごとく、文句を言える大女優山内ひとみだが、その言い草もパワハラと思わないでもないことが多かれ少なかれあった。
「高広が怒鳴りまくってるから、みんなが萎縮しちゃって、ヘボが益々ヘボになるじゃないの!」
 大女優と鬼プロデューサーがセットで入っている撮影現場は、皆が戦々恐々というわけだ。
 だがもし、工藤がただ理不尽に怒鳴っているだけであれば誰もついていかないし、質のいいドラマも生まれない。
 怒鳴り声に恐れおののいているだけでなく、何を言われているのかをちゃんと理解できるものだけが上に上がっていけるのだ。
 良太は軽い朝食用のサンドイッチと缶コーヒーを俳優陣やスタッフに配って歩き、二村のところにも持って行った。
「ありがとうございます」
  二人に袋からサンドイッチを出して渡すと、マネージャーの酒田という女性も二村の後ろでぺこりと頭を下げた。
「そんな頭下げられるほどのものでは」
「いえ、さっき、私がへたっている時、休憩って声かけてくださって………。何度も怒られるし、工藤さんおっかないから、余計へたっちゃって」
 ちょっと涙ぐみながら二村が言った。
 彼女は最近ドラマなどでワキだが雰囲気も可愛いと人気が出て、CMにも顔を出し始めたところだ。
「大丈夫ですよ。次頑張れば。なんかほら、百パーセントなら誰でも頑張ればできるけど、百二十パーセント出そうと思ってそれに近づいた時って、すごく自分でも達成感あるじゃないですか」
 良太はにっこり笑う。
「百二十パーセントですか?」
 キョトンとした顔で二村は聞き返した。
「はい。次はきっと頑張れますよ」
「わかりました! 頑張ります!」

 


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