残月6

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 一族と一緒にって、ほんとに席が隣、それも会長夫妻とかだったら肩凝りそう。
「観たいんならとりあえずチケット用意してもらえば? もしスケジュールがどうしてもだったら、社内にきっと行きたい人いるんじゃない?」
 志村が助け船を出した。
「わかった。じゃ、また持ってくる」
「ありがとうございます」
「伝統的な能と俺の新作舞踊と二部構成になってる」
 桧山は簡潔に説明した。
 きっとひどくきれいで優雅で幽玄な舞台なのだろう、良太は撮影の時の桧山の動きを脳裏に描き出した。
「あれ、そういえば匠は研二さんのご友人なんでしたっけ?」
「ああ、そう」
 少し口籠るように、桧山は答えた。
「ああ、最近、研二さんとこのお菓子、食べてないなぁ。美味しいですよね。よし、今度、匠の家でロケの時、差し入れに持ってきますね!」
 撮影のために、古い日本家屋、それも大きめの屋敷を良太はやっと探しだしたのだが、修理が必要な個所が見つかったとかで断りの連絡が入ったのは撮影間近になってからだった。
 慌てて再度探したのだがなかなか見つからず良太が頭を抱えているのを桧山が知って、俺んちでよければ、と提案してくれたのだ。
 桧山の言う、俺んち、にその日のうちに招待された良太は、うわ、と声をあげた。
 借りる予定していた屋敷の倍はありそうな、古い日本家屋だった。
 しかも割とよく映画やドラマに使われている屋敷と違い、東京郊外にあるこちらはホンモノ、という威厳さえ感じられた。
 周りをぐるりと塀に囲まれ、いつの時代のものだろうと思われるような家の高い門、よく手入れされた庭園、磨かれた廊下、床の間には、鑑定番組なら飛びつきそうな掛け軸や壺や絵皿などが飾られている。
「ここって匠は住んでないんだよね?」
「そう、たまに帰るくらい」

 


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