残月89

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 俺に一緒に来いとかって言ったくせに、佐々木さんには、やっぱなかなかそうも言えないか。
 でも、逆にクリエイターとして知られている人だからこそ、一緒にアメリカに渡ってもやって行けるのではないかとも思う。
 佐々木さんが仕事の拠点を東京からニューヨークに変えるだけのことだ。
 もし、沢村が買ったという元佐々木家の土地に家を建てて、いずれはそこに住むつもりなのだとしても。
 なんて、傍で考えるようにはなかなか行かないってのが相場だよな。
 それに佐々木さんには、あの矍鑠としたお母さんがいるしな。
 良太は一月に大和屋主催のイベントに、門下生を率いて茶事を行ったきれい怖い女性を思い出した。
 やっぱ難しいか。
「それと今期急成長したレッドスターズの八木沼選手の特集でしたね、広瀬さん」
 殿村にふられてちょっと意識を飛ばしていた良太は、はい、と大きく頷いた。
 八木沼大輔は大阪出身の二十五歳で、関西の大学リーグでは大柄で豪快なスイングから第二の沢村として注目され、レッドスターズにドラフト一位で入団した年から活躍し、今年で三年目、ハーフでイケメン、しかも関西弁で芸人かという軽快なボケ突っ込みトークで、女子中高生から大人女子まで人気を集めている。
 良太も何度か取材で会っているが、ひょうきんで人懐こく、チームのムードメーカーでもある。
 褐色の肌と巻き毛に騙されてハローなんて声をかけた日にはわざと、オレエイゴワカレヘン、なんて妙ちきなカタカナ大阪弁で返される。
 実の母は八木沼が幼い頃アメリカに帰ってしまったという事情もあるのだろうが、英語のスペルは間違える、会話などチンプンカンプンというていたらく。
「俺、ナニワのど真ん中で育ったし、高校までずっと公立で、うちの野球部もそこそこくらいで、甲子園なんか夢のまた夢やったもんな」
「俺もそうでしたよ。でも八木沼さんはこうしてプロで花開いたわけで、これからの活躍がとても楽しみです」
 ある日の取材でそんなやり取りをしたが、よもや、その八木沼と沢村が一緒に自主トレをやることになるとは思いもよらなかった。

 


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