真夜中の恋人12

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 編集者はいざとなれば電話だけでのやり取りでもいいし、楽なのだろう。
 そこへ行くと宮島教授やあの工藤は千雪に対して最初から何の先入観もなく、ごく普通に接していた。
 まあ、何が出てくるともわからない業界を渡り歩いてきた工藤にしてみれば、この程度のコスプレなど、ちょっとやそっとのことでは驚いたりしないのかも知れない。
 ああ、そう、よけい面白がって懐いてきたやつも二人ほどいるが。
「あっ、千雪先輩、こそこそフケようなんて思てはるんちゃいますやろ?」
 とろとろして厄介なやつに掴まった。
「まだ八時でっせ? 先輩、たまにはこういう付き合いもせんと」
「うるさいな、俺はこれから仕事や」
 取られた腕を振り放し、佐久間を押し戻した。
 ひょろっとした長身だが、京助の後輩で空手の有段者というだけあって、案外力では勝てなそうだが。
「仕事て、何ですねん? でもさっきの話、ほんまに映画化するんでっか? あのやくざで怪しい芸能プロの社長なんかと、心配や」
 まんざら言葉の上だけでもなさそうではあるが、むしろ放っておいて欲しいものだ。
「お前に心配されるようなことはあれへん」
 いい加減、まとわりつくな、と思っているところへ、携帯が鳴った。
「はい、ああ、あんたか」
 話を聞いていたかのようなタイミングで、工藤が電話をしてきた。
「これからオフィスに来れないか? ヒロイン候補に合わせたい」
 こんな状況でなければ、そっちで勝手にやってくれとでも言うのだが、ここを抜け出す言い訳ができたようだ。
「ほな、今から行きます」
 携帯を切ると、「ほならな。仕事やから」と佐久間に言い残し、千雪はタクシーを止めて乗り込んだ。
 それを見ていた京助が慌ててやってきた。
「何だ、あいつ、どこ行った?」
「はあ、今、電話があって、仕事やて言うて、行かはりました」
「電話だと?」
 すぐさま追いかけようとした京助だが、「何してんのよ、行くよ」と牧村に腕を引かれた。
 


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