お前にだけ狂想曲16

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「俺の出方次第じゃ、どうするって? いいのか? そんなこと言って、俺がお前のことを書いて週刊誌にでも売りつけりゃ、青山プロの評判もがた落ちだな? 社長が社員にウリさせていたなんてな」
「あれは俺が勝手にやったことで、会社とは何の関係もない!」
「さあ、それは読み手がどう取るかの問題だろ? そうなったら、おいそれと大手を振って歩けなくなるな? お前の大事な工藤さんも」
 にやりと笑い、土方はじっと良太を見据える。
 良太は愕然とする。
 まさか、俺と工藤さんのことを…
「この、クソヤロー!」
 やっぱり、やっぱり、計画を実行するしかない。
 決意を再確認した良太は、テーブルの下で拳を握り締めた。
 
   
 
 
 店を出た二人は、無言のままエレベーターで土方の部屋に上がる。
 ベッドルームに入ったところで、良太は隠し持っていたナイフを抜いた。
「おいおい、そんなちゃちーもんで俺が殺せるとでも思ってるのか? ガキ」
 良太のナイフを見ても、土方は鼻で笑っててんで動じない。
 きさまを殺そうなんて誰が思ってるもんか。
 良太は心の中で毒突く。
 わざと外して、土方がナイフを奪ったところで、自分がそのナイフに体当たりする…はずだったのだが、土方に奪われたナイフは部屋の隅に放られてしまう。
 くそ、それじゃ、計画が…
 ナイフを取ろうとした良太の腕を土方は簡単に捩じ上げる。
 その時、玄関のチャイムがたて続けに鳴った。
「土方さーん、下の喫茶店の者ですが、落とし物ですぅ」
 男の声がドアの外から聞こえてくる。
「何だよ…」
 土方は良太を突き飛ばして、玄関に出て行った。
 その間に良太はナイフを拾う。
 何としてでも、こいつに殺されなきゃならないんだ!
「何だ! きさま」
 土方の声が聞こえたと思うと、ガコッという妙な音がした。
 走り出た良太の目に映ったのは、心の中でいつも呼んでいた工藤その人だった。
「バカヤロウ!」
 怒鳴り声も確かに工藤のものだ。夢じゃない。
「そんな物騒なもん、捨てろ! さっさとこっちに来い!」
「工藤…さ…ん…どうして…」
 それ以上、良太は言葉が続かなかった。
 ブワッと溢れた涙ごと工藤に抱きついた。
 工藤はそれをしっかと抱き締める。
「全く、お前は何度バカをやったら気がすむんだ」
 しゃくりあげる良太の背中を優しく叩き、工藤は床に倒れている土方を睨みつける。
「行くぞ」
 ようやく少し落ち着いた良太の肩を抱き抱えたまま、出て行こうとした工藤に、土方が呼びかけた。
「社内恋愛ゲイ版ってやつ? いや、社員にパワハラセクハラとかならネットでも大騒ぎだな。楽しみに待ってな。これで青山プロもおしまいかもよ?」
「ほざいていろ!」
 工藤は冷ややかに言った。

 


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