好きだから 10

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 沢村が東京で定宿にしているホテルに電話をしてきたのは、兄の妻文香だった。
 とっくに縁を切っているつもりの沢村の家には携帯も教えていなかったし、父親や兄が役職にある朝日ホールディングスで何があっても沢村は家を出てから参加したことはない。
 沢村は自分を冷遇してきた父親だけでなく、互いに恋人がいて憎みあっているのが一目瞭然の母親も、父親に寵愛されて、事あるごとに自分と比較したがる兄も嫌いだった。
 唯一、沢村を可愛がってくれた母方の祖父が亡くなったのを機に、沢村の家を出た。
 その時に相続放棄すらしている。
 だが大学時代母親の彰子から歩み寄ってきた。
 自分を嫌っていると思っていた彰子だが、恋人と別れさせられて政略的に沢村と結婚させられたことや、父親の宗太郎は沢村が彰子と恋人との間に生まれた子供だと疑い、冷たい態度を取っていたことなどを沢村に話した。
 そんなことは沢村はとっくに自分で調べて知っていたし、実際は成長するとむしろ父親に外見が似てきたものの、野球を続けることも反対していた父親とはもはや溝は埋まることはない。
 ただ彰子とはたまに連絡を取るようにはなっていた。
 文香から彰子も出席するからと誘われたのが、とある慈善パーティーだった。
 慈善パーティと聞き、母親の手前もあって出席した沢村だが、朝日ホールディングスの取引先の一つである大手企業山名物産社長とその娘、山名実和を紹介され、彼女を沢村に会わせることが父親の目的だったのだと知ると、沢村は内心怒りが込み上げた。
 あれだけ反対していたにもかかわらず、父親がプロ野球選手として活躍し人気が出た沢村の名前を今度は事業に利用していることも既に耳にしている。
 ホテルのパーティ会場からホテル内にあるレストランの個室に通され、山名親子との食事会となり、こんなところで怒りをぶつけても自分の損になるだけだと必死で抑えていた。
 ところが沢村との縁談話をぜひとも進めたいばかりの山名が、「以前、女子アナとお付き合いされていたと伺いましたけど、今はお付き合いされている女性はいらっしゃらないんですね」などと突っ込んだ質問をぶつけてきた。
 俺が誰と付き合おうとあんたらに関係ない、ともすればそんなことを口にしてしまいそうなところを沢村はその時はぐっと堪えた。
 堪えるところは堪えるべきなのだと、この一年の佐々木との付き合いで習得してきたつもりだった。


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