好きだから 102

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 世話になった医学博士が来日して後援会に行かねばならず、スワローズのファンイベントには残念ながら行けなかったという稔は、この日のイベントに燃えていた。
 ロングベンチコートの下には、稔に渡された津波黒のジャケットを着こみ、スワローズのキャップを被った佐々木は、稔の後についてシートに向かったが、一塁側のベンチ上というSS指定席からは、特設ステージがよく見えるだけでなく、近い気がしてちょっと焦る。
 いや、近いといっても選手からはよもや観客の顔などわからないだろうと、気を落ち着かせて佐々木は球場を見回した。
 この球場なら行けないことはなかったのにと、ゲームを一度も見ていなかったことを、佐々木は今更ながらに後悔した。
 やがて男性アナウンサーの司会で選手が登場する。
 ジャイアンツの正捕手で過去ゴールデングラブ賞を受賞している爽やかイケメンの右投右打小森、チームは最下位に終わったが今期本塁打王スワローズ右投右打の山本、今期急成長したレッドスターズの若手右投右打八木沼、今期打率、打点王獲得、右投左打タイガースの沢村の四名は特にコアな主に女性ファンから独身イケメン四天王などと呼び称される人気選手で、この四人が紹介されると一段と黄色い声があちこちで上がる。
 紹介された選手が特設ステージへと走っていく。
 近いと言っても選手の顔がわかるような距離ではないが、ステージのようすは外野の大画面に映し出され、ステージに上がった選手一人ひとりがクローズアップされると、歓声が大きくなる。
 佐々木の隣にはおとなしそうな女性二人が座っていたが、八木沼と沢村が紹介された途端、思わず耳を塞ぎたくなるような声を上げた。
 稔もスワローズの山本や捕手の嶋田が登場すると、うおーーっという声と共に選手の名前を叫ぶ。
 最初から気後れした佐々木だが、画面に紹介された沢村の顔がアップになり、マスコミ向けには素っ気ないというその声が会場に響くと、身体が硬直した。
 しばらく耳にしていなかったその声は、佐々木の胸の奥までも浸透していく。
「クッソ、あの沢村のヤツの打率がもちょい低けりゃ、山本が二冠だったのによ!」

 


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