好きだから 107

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 佐々木はステージからじっとこちらを凝視しているのが沢村だと気づいて、思わず目をそらした。
 まさか、やろ、俺に気づくとか、この距離で。
 いくらステージに近いシートとはいえ、自分に気づくはずがないだろうと、佐々木はしばらく俯いていた。
 ややあって顔を上げると、沢村は次の質問に答えてまた不愛想な返答を返していた。
 まさか……や。
 だが、佐々木はもうそれからステージに集中することはできなかった。
 もともと一度も生の沢村を見ていなかったことを悔いて、ちょっとその姿を垣間見られればそれだけでよかったのだ。
「稔さん、悪いけど、俺、今日はこれで帰るわ」
 トークイベントが終わったところで、佐々木は言った。
 昼を挟んで、午後は子供たちの野球教室とチャリティーバザーの予定になっている。
「もういいのか? 仕事がどうとか言ってたが」
「ああ、雰囲気とかわかったし、もう」
 稔に仕事がなどと適当な理由をつけていたことを佐々木は思い出した。
「ふーん、じゃ、俺も帰るかな」
「え、稔さん、バザー楽しみにしとったんちゃう?」
「まあ、別にいいさ。腹減ったし、どっかで昼メシ食おうぜ」
 席を立ち、稔は通路を歩く佐々木の頭に手を置いた。
「稔さん、頭、俺、小学生やないで」
 佐々木は笑う。
「ああ、つい、癖で」
 昔からスキンシップ過多だった稔だが、海外が長かったせいか余計にそれが助長した感がある。
「俺、ひょろっと伸びたから、頭撫でるとか稔さんくらいやけどな」
 立ち上がった佐々木の頭に触れるとかはデカい稔だからだ。
 ああ、そういえばもう一人いたか。

 


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