好きだから 116

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「何だ、きさまこそ、誰だ?」
 佐々木は二人の前に立ちふさがった男にしばし言葉を失った。
 ゆらりと顔を上げた男が、街路灯に照らし出されると、今度は稔が驚いた。
「お前……」
 思いもよらぬ状況に、佐々木は頭が真っ白になった。
「稔さん、悪い、お客なんで……、今日は色々おおきに」
 かろうじて佐々木がそれだけ言うと、「あ、ああ、ほんじゃ、またな」と稔はその場を立ち去った。
 しばらく二人の間に沈黙が流れた。
「こないなとこきたらあかんやろ、マスコミに何か嗅ぎつけられよったらどないすんね」
 観念したように佐々木は言った。
「んなもん、どうでもいい! あいつ、誰だよ? 俺には忙しくて電話もできないとか言って、あんなやつと逢う時間はあるのかよ?」
 怒気を含んだ沢村の言葉に、佐々木は言葉に詰まる。
「近くのかかりつけの医院の先生や。こないだ、おかんが足、ケガしてな」
「お母さんが? 入院とか?」
 沢村は少し驚いて聞き返した。
「そんなんやないけど、捻挫のひどいやつで、うちでもしばらく車椅子つこてたけど、もう、ほとんどようなったから」
「そうか、大変だったな。知ってれば何か手伝うこともできたのに」
「アホいいな。そんなこと頼めるか」
 また沈黙があった。
「あいつには頼めるんだ?」
「やから、稔さんは外科医やで?」
「今日、イベントにあいつと一緒に来てたのって、それとは関係ないよな?」
 ほんとに気づいてたんか?
「遠目にも雰囲気があんまり似てたんでまさかと思ったんだ。それにあんた、気づかなかっただろ、画面にちらっと映ったんだよ」
 悪いことはできないものだと、佐々木は自分を嗤う。
「稔さん、ガキの頃からスワローズファンなんや」
「へえ?」
 沢村は鼻で笑う。

 


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