好きだから 12

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「いや、冗談を言うような場ではないでしょう」
 こうなればこの傲慢で自己中な父親もぎゃふんと言わせてやりたくなる。
「見ましたよ、ビジネス誌で。最近は朝日ホールディングスもダイバシティ経営への取り組みを推進する企業として名乗りを上げているらしいじゃないですか」
 沢村は淡々と言い放つ。
「これは強い味方ですよね」
「いい加減にしないか、智弘」
 それまでほとんど口を出さなかった兄の宗一郎がきつい口調で沢村を睨みつけた。
 もしそこで沢村の携帯が鳴らなければ、さらに宗一郎に対しても何か言葉をぶつけていたかもしれない。
 席を立ったもののその場で英語でしゃべりだしたので、他のみんなは口を噤んだ。
 ちょっと驚いたのは電話の相手だろう。
「おい、何だよ! 電話しろって言ったから電話したのに!」
 面食らった相手にはお構いなく、大事な取引先と食事会の途中だが、急ぎの用ならすぐに向かう、と英語でまくし立てると、球団の通訳が困っているらしいなどともっともらしい理由を付けてたったかその場を逃げ出し、電話の相手には、もし相手がお前の言ったことをそのまま受け取ってマスコミがそれを流したらどうするんだ、と怒鳴りつけられ、案の定、数日後には沢村選手大企業令嬢と結婚か、のスクープとなった。
 というのが、事の顛末だ。
 

「バッカじゃない?」
 話を聞いていたアスカが一言、ただでさえ忸怩たる思いの沢村を一刀両断に切って捨てた。


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