好きだから 122

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 冬の平日で雨だからか、時間も半端な時間なのだろう店内にはほとんど人がいなかった。
 佐々木はマフラーを取って窓側のテーブルにつき、温まりたいとミルクティを頼んだ。
 ああ、と思い出したことがあった。
 大磯に行ったのは沢村と出会った次の日だった。
 翌朝湘南バイパスを車で飛ばしていた沢村が、「この先に海が近いカフェがあるんですよ」などと言った。
「佐々木さんの仕事があるから今日は残念だけど、今度ぜひ行きましょう」
 あれ、ひょっとしたらこの店のことやったんやろか。
 ご飯食べて大磯のホテル行って、海の見えるカフェとか、ベタやけどちょっと贅沢なデートコースやな。
 後で沢村が佐々木に言ったように、あの頃、落ち着いた男に見せようと結構背伸びしていたらしい。
 以来、お互い忙しくて来たことはなかったが。
 まあ、女性が相手なら、こんなカフェなら、いくらでも絵になるやろが。
 そうや、あの岡田マリオンとかな、普通、マリオンそでにして俺とかないわ。
 佐々木は昨年末のパーティを思い出して嗤う。
 けどどうせなら、このカフェとかも沢村とこられたらよかったな。
 ほんまに一回くらいゲームもちゃんと行ったらよかった。
 どうせなら、もっと、つまらんことでもええから話したかったな。
 家族のことかてもっと聞いてやったらよかったんやないか。
 縁を切ってるとか言うてたけど、そんなことを言葉にするまでには色々あったんやろ。
 ほんまのあいつの気持ちを考えようともせなんだ。
 自分から別れたというのに、あとからあとから沢村のちょっとした仕草までが思い出される。
 あんなこと、言いとうなかった。

 


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