好きだから 123

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 自分が口にしたにもかかわらず、ぶつけたひどい言葉がそのまま、佐々木の心を抉る。
 怒れよ、罵ればええ。
 俺なんかのことはもう忘れてまえばええんや。
 疫病神の俺なんかと関わったばっかりに。
 沢村を傷つけたくなんかなかったのだ。
 ふう、と大きく溜息する。
 ぼんやり頬杖をついて静かに雨の海を見つめていると、少しばかり頭の中の思考回路が動き始めたようにも思った。
 やがてドアが開いて何人かが店に入ってくる足音がした。
 急に騒めき始めた空気に、そろそろ出るかと思うのだが、何となく身体が重く感じられて、佐々木は動きそびれていた。
「へえ、こうしてみると雨の海ってのも心があらわれるよな」
 背の高い男が隣に来て言った。
「お前が、優等生みたいなセリフ、笑えるぜ」
 後ろからそんな声がして、同時にパシャパシャっという音がした。
 佐々木が緩慢な仕草で振り返ると、カメラを構えた若い男がまたシャッターを押した。
「あ…………」
 しばし男は固まったままじっと佐々木を見つめた。
 似たような反応は何度も経験しているので無視してマフラーを掴むと佐々木は立ち上がろうとした。
「あの、あの、ゴメン、勝手に撮っちゃって、すんげく絵になるんで、ひょっとしてモデルさんとか?」
「いや、俺は……」
 おいおい、またかい、こないだも似たようなことがあったな。
 さすがに呆れてしまう。
「うお! 男?」
 佐々木と目線の位置が変わらないくらいの男はまだ二十代だろう、つばを後ろに回したキャップにさりげなく短めの髭をたくわえ、持っているカメラはプロ仕様のニコンでなかなかの代物だ。

 


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