好きだから 129

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 俺がおかしいと、良太も気が付いているらしい。
 たった今のスイングで飛んで行ったボールの行方も追うことなく、沢村はマシンから放り出される次のボールを待って思い切りボールを叩きつけた。
 あいつはああ見えてアホじゃないから、察したのだろう、何も話しかけてこない。
 フン、こんなていたらく、誰に話なんかしたいもんか。
 沢村はひたすらボールを打ち続けた。
 浮かれてた。
 あの人を手離したくないばっかで。
 俺の身勝手なやり方で振り回して。
 あの人の心の内を思い遣ることもしないで、何が愛してるだ!
 今日ばかりは、八木沼の能天気さが有難かった。
 抜けきらない酒をランニングでごまかしたとか、お陰で俺のダメダメさ加減に報道陣も興味を持たないでくれた。
 沢村は自虐的に嗤いながら、バットを振り続けた。
 あの夜、佐々木と別れてからというもの、頭の中は滅茶苦茶だった。
 頭の中だけではない、生活も何もかも、かろうじてこなしているといった具合で、どこまでも自制できない自分を持て余す日が続いていた。
 あの男と佐々木がと思い出すとはらわたが煮えくり返るような思いに駆られ、居ても立っても居られず、もう一度佐々木を箱根にでも連れて行こうかなどと思ってみるものの、それではいつぞやのバカな男の二の舞だと、寸でのところで自分を抑え込む。
 ただ、佐々木に会いたいというあらがいがたい思いが時折沸き上がり、出口のない苦痛に苛立ち、立ち往生するばかりだった。

 


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