好きだから 13

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 沢村も返す言葉がない。
「まさか佐々木ちゃんの名前とか出してないでしょうね?」
「それはない!」
「だったら、今までにもそんなスクープはあったわけで、そこで何で小田先生? 沢村宗太郎に対する訴訟や名誉棄損なんてことになるわけです?」
 それまで黙って聞いていた秋山が口を挟んだ。
「問題はそこなんです。以前にも沢村宗太郎が興信所か何かを使って俺の調査をしていた節があって」
 途端に沢村は渋面に変わる。
「ああ、なるほど、今度もやるかもしれない、しかも佐々木さんを巻き込むかもしれないことを懸念しているというわけですね?」
「もう既に変な奴が周りをうろついてますよ」
 吐き捨てるように言うと、沢村は残りのブラウニーを一気に食べて紅茶を飲み干した。
「まあねえ、沢村っち人気者だし、親も心配してるんじゃないの? 子供に変な虫がつかないようにとか」
 アスカの言葉に沢村は苦笑いする。
「あの男はそんな殊勝なやつじゃない。昔は野球やるのを反対していたくせに、プロに入ったら今度は俺の名前をちゃっかり仕事に利用するようなやつだから。うちは最初から家族破綻してたのさ。親は政略結婚で互いに憎みあってた。それぞれ外に相手がいるし、俺もみんな嫌いだった。ただ、母方の祖父は、意に染まない結婚をさせた母のことを不憫がってた。学生の時付き合っていた相手が国境なき医師団に参加していたから、母のことを思って別れさせたらしいが、間違ってたってさ」
 最近付き合っている相手は、妻を亡くしたらしい当時の恋人だと母の彰子は沢村に打ち明けている。
 ボランティア団体などを立ち上げて、今は充実しているのだろう、息子のことも気に掛けようと思えるくらいに。
「そりゃ、不遇な子供時代でしたね」
「何が不遇なもんか。ガキの頃なんかピッカピカのシューズとか金かかったグラブとかバットとか見せびらかして、俺らボロ道具使ってる貧乏チームのこと散々バカにしてたくせに」
 秋山がちょっと同情を滲ませたが、やっと作成した書類をプリンターから取り出した良太が、横やりを入れた。


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