好きだから 130

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 地下鉄半蔵門線半蔵門駅の一番町側出口から歩いて数分のところに建つ、六階建てのまだまだ新しい瀟洒なビル。
 一階には品のいいカフェが入り、三階から六階はマンションになっており、入居者は中産階級以上の住人である。
 その二階が「オフィスササキ」だ。
 佐々木自身が知らないうちに、佐々木が籍を置いていたジャストエージェンシー社長の春日が、佐々木の母淑子が所有していた古いビルの立て直しを提案して、独立を余儀なくされた佐々木は春日の肝いりですっかり出来上がったセンスのいいオフィスにそのまますんなり収まったというシロモノだ。
 佐々木に独立を勧めたとしても、本人に任せていたらオフィスを構えるだけでもいつになるかわからないと、本人の性格を知った上で春日がたったかお膳立てをした結果である。
 ぬるま湯に浸かっているような状況が居心地がいいからと、春日が本人を追い立てなければ、ずっと佐々木はジャストエージェンシーのデザイナーでいただろう。
 だがそれでは佐々木の才能は埋もれたままになりかねないと、春日は心を鬼にして佐々木を荒波に放り出したのだ。
 ジャストエージェンシーデザイン部顧問と取締役という肩書を佐々木に残したのは春日の最後のあがきであるが。
 お陰で独立してからというもの、あちこちからオファーが入り、独立一年目はこれまでの佐々木を顧みればてんてこ舞いな仕事漬けだった。
 もともとぬるま湯がええのに、という佐々木にとって、そういう状況にしてくれた春日への恨み節も時折口にしながらも、アシスタントの直子のフォローもあって仕事を効率よくまわしつつ、何とかオフィスとしても落ち着いて二年目に入り、順当に数か月が過ぎたところだ。
 十二月に入ってから佐々木も直子も忙しない毎日を過ごしていた。
 仕事上は順調すぎて笑えるくらいな状況で、これでもどうしてもな仕事以外はセーブしているのであるが、直子も自分の仕事以外でも届け物をしたり、取引先に受け取りに行ったりとてきぱき動いてくれている。

 


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