好きだから 131

back  next  top  Novels


 オフィスでの服装にはジャストエージェンシー時代から何の制限もないが、直子は取引先に行く時用のスーツをロッカーに置いていて、佐々木よりもビジネスマン的素養はしっかりしている。
「ただいま戻りましたぁ」
 オフィスに明るい声と共に直子が帰ってくると、重だるい空気が変わる。
 重くしているのは自身のせいだとは自覚はあるのだが、今のところ一向に軽くなる気配がない。
 直子が楽し気に飾り付けている大きなクリスマスツリーが来客用スペースで静かに輝いているが、それもあまり重い空気には効果がないようだ。
「お帰り。寒かったやろ」
「かなり、冷え込んでるよぉ。クッキー買ってきたから、ちょっとコーヒーブレイクしようよ」
「ええなぁ、なんやキリキリやってたから肩とか首凝ってもて」
 佐々木は首を左右に傾げてから、椅子から立ち上がった。
「佐々木ちゃん、夢中になるととことんやっちゃうから、ダメだよぉ、根詰めすぎ!」
 ハハと空笑いしながら、佐々木はテレビの前のソファへと移動した。
 仕事に没頭していないと、思考があらぬ方向へ飛んで行って自分で制御できなくなりそうで、ついつい画面に噛り付いてしまうというのが、ここ最近の佐々木の常だった。
 テーブルの上にぼんやり視線を巡らすと、先日怒りとともに直子が持ってきた雑誌がまだ置いてあった。
 直子が何を怒っていたかというと、佐々木本人が知らないうちに撮られた写真が載っていたからである。
 二十代から三十代をターゲットにした週刊女性ファッション誌で、お洒落な店を紹介したページのイメージ画像なのだが、それに使われていたのが、先日仕事でたまたま数人のモデルたちと言葉をかわしている時に撮られたらしい写真だった。
 撮影というよりスナップ的に撮られたものだが、くっきりはっきり佐々木が写し出されていて、たまたま気づいた直子が佐々木に問いただしたのがきっかけで、発覚したのである。
 モデルたちの中にいても引けを取らないどころか、その美貌が際立っている。
 そう思ったのは直子だけではなかったらしく、当の雑誌社にこの人物が誰かという問い合わせが何件もあったらしい。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ