好きだから 132

back  next  top  Novels


 実はこの写真は編集者がカメラマンから渡されたデータから無造作に選んだもので、読者からの問い合わせによって、慌ててこの人物の特定にかかったのだが、モデルたちの所属する事務所に問い合わせても、このモデルはうちの所属ではないと言われ、編集者があちこち探していたところへ、直子からの怒りの電話が入った、というわけである。
「存じ上げなかったこととはいえ、こちらの不手際で、大変申し訳ございませんでした」
 後日、菓子折りを手に編集長がカメラマンを伴ってオフィスにやってきて、平身低頭、謝罪の言葉を並べ立てた。
「あまりにモデルさん然としておられる美貌でよもや、業界屈指のクリエイター佐々木様とは思いもよらず、弊社といたしましては、大変恐縮ながらいかなるご請求にもご対応させていただきますので、何卒穏便に……」
「いや、俺のせいなんす! ごめんなさい!」
 歯が浮きそうな美辞麗句を空々しくも感じて、佐々木は内心、もういいから帰ってくれと思っていたのだが、最初神妙に編集長の隣に座っていたカメラマンに目を向けた。
「あんとき、海の店で、佐々木さんがモデルじゃなくて有名なクリエイターだって小暮さんにも注意されたんだけど、こないだ仕事でたまたま佐々木さん見かけて、仕事関係なく思わずシャッター押しちゃって、それが今回、仕事のデータに混じっちゃってて、ほんっとにすみません!」
 たたたっと捲し立ててカメラマンが頭を下げる。
「ああ、君はあの時の……」
 確かシンちゃんとか周りから呼ばれていた若いカメラマンだと、佐々木はようやく気付いた。
「幸田信二っていいます」
「いや、今回は事故ということで、補償的なことは何も求めませんが、お互いこういう業界にいるものとして、今後注意するべきかと思いますよ」
 佐々木は一応そう釘を刺して二人に帰ってもらったが、メディアに出てしまった例の画像は、直子によれば誰かがネットにもあげたらしく出回っていて、既にクリエイターの佐々木だと特定もされているという。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ