好きだから 135

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 当初、佐々木は手一杯だからと断ろうとしたのだが、そこを何とか考えてもらいたいと強引に電話を切ったのが電映社営業部の今西という四十代のやり手と知られる男だ。
 肩書はビジネスプロデューサー。
 スリリングレモンの広告プロジェクトは春日経由だったので、有無を言わせずやらされた感があり、タレントを入れ替えての時間もない撮り直しとなったことは、佐々木も仕方がないと思ったが、どうもこの担当者とは最初から合わない気がしていた。
 というのも最初から向こうも佐々木に対してあまりいい印象を持っていないことが伺えたからだ。
 プロジェクトは担当と合わなければ成功しないというのが佐々木の持論だ。
 あとで春日から今西のことを聞かれて、はっきりそう言った。
 ぬるま湯好きの佐々木だが、そういうところははっきりしていることを誰よりもよく知っていたので、春日はそうか、と言っただけだった。
 だからその担当者からまた仕事が入るとは思っていなかった。
 どころか、翌日には本人がオフィスを訪れ、話だけでも聞いてほしい、と頭を下げられた。
「初夏から新発売する糖質オフ・プリン体オフのノンアルコールビール、「Yes!Free!(イエス、フリー)」、苦みもそこそこあり、深みがある味で飲みごたえ十分、炭酸も強く、さっぱり感のある香り。重厚なそれでいて華やかさもある、もちろんコスパも高い、朱雀酒造来夏のイチオシということらしい」
 今西はまだラベルのない数本の缶をテーブルに置いた。
「ぜひまた試飲していただきたいが、私も飲んでみたが確かにうなずけるものがあります」
「はあ」
 コーヒーにも手をつけず熱弁をふるう今西の勢いにも、佐々木は力のない返事を返す。
「そこで、キャスティングしたのが、八木沼大輔です」
「八木沼?」
 どこかで聞いた名前だ、と佐々木は思った。

 


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