好きだから 137

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 そこで初めて今西は冷めたコーヒーに口をつけた。
「私もあなたのお名前は聞き及んでいましたから、渡りに船とばかりにお願いしたわけです。しかし」
 今西は目力の強い視線を佐々木に向けた。
「私にも平成世代、いや、昭和なポリシーのようなものがありましてね、あなたと初めてお会いした時に、そのポリシーのファインダーを通してあなたを見てしまったことは確かです。見かけにこだわるやつはクリエイターとしてはダメだとね」
 はあ、と佐々木はうんざり頷いた。
 やったら早いとこ帰ってくれ、俺は仕事の続きがしたいんや。
「そんなことを言われて、このやろう、だったらやってやろうじゃないか、とか思いますか?」
「いやもう、できればぬるま湯で仕事してたいんで、根性論展開されても」
「なるほどね、しかし受けた仕事はきっちり結果を出しておられる。見かけ云々は、私の卑屈さからなんですよ。センスもない上に地も悪い。だからクリエイターは見かけにこだわらないやつがいいとかね。それに地がよくなければ、センスだけではどうにもならないものもありますからね」
 早口で今西は持論を捲し立てた。
「合わせます。ぬるま湯にでも何にでも。スリリングレモン、CMも好評でクライアントもいたく喜んでいますし、初夏の発売ですから、時間はあります。前回の場合は、出だしが遅かった上に撮り直しで、大変だったかと思いますが」
 あまりな強引さに負けてしまった形で、この仕事を受け、先日最初のミーティングが行われ、できあがったプロジェクトのデザインブリーフに沿って、明日にはイメージキャラクターである八木沼を交えての打ち合わせとなっていた。
「でもあの今西って、好かないやつ」
 クッキーをほおばりながら、直子がぼそりと言った。
「強引で、偏見で、自信家で、俺様タイプ」

 


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