好きだから 147

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 八木沼のマネージャーまでも必死で頭を下げる。
「俺のことはもうええんで、ここはタレントさんとか選手のフォローするとこ違いますか?」
 さっき自分で自分に腹を立てていたこともあって、余計に言葉もイラついて出る。
「いやしかし、佐々木さん、大抵はんなりしているけど怒らせるとやばいって、前に怒って仕事降りた前歴があるって、春日さんにも聞いてますからね」
 今西が苦笑する。
 ったく、春日さんも、そんな昔のことを。
 あれは確か、まだ三十手前の、佐々木なりに血気盛んな頃のことだ。
 春日がやはり大手経由で受けた仕事に佐々木も駆り出され、当時若手で売れっ子のモデル兼タレントの大倉航大を起用した広告プロジェクトだったが、最初からこの航大が佐々木に馴れ馴れしいを通り越して、べたついてきた。
 最初は仕事だからと佐々木もわきまえていたとはいえ、それを逆手に取って言い寄ってきた航大にブチ切れて、仕事を降りてしまった。
 プロジェクトはほぼ完成していたため、あとは春日が引き受けたのだが、佐々木の機嫌が戻るのに割と時間がかかったのだ。
 そんな顛末を今西は聞いたのだろう。
 それ以降、佐々木も仕事は仕事とわきまえてはいたが、植山のことがあってから意識過剰になっているのかもしれない。
 我に返ると、今の状況を思い出して、今度は頭痛がしそうだった。
 気が付くとバットの快音は消えていて、佐々木はふいに強い視線を感じた気がした。
 だが振り返る気力はなかった。
 今西らが八木沼とバッティングの話をしていた。
 今度は八木沼がバッターボックスに立つようだ。
「俺はしばらく昼、行ってくるから、自由に使っていいぞ、大輔」
 ここにきて初めて聞いたその声の主が誰だかわからないはずはない。

 


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