好きだから 148

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 バットケースを肩に引っ掛けて歩き出した沢村に、今西が声をかけた。
「そういえば、沢村選手、佐々木さんとは前の仕事で面識あるんですよね?」
 強くなる佐々木の心臓の鼓動は、その言葉にさらに大きくなり、ドクンドクンと頭の中でまで揺すぶっている。
「どうも」
 佐々木の横に立った男は、低くそれだけ言った。
 佐々木は声を出すこともできず、ただちょっと頭を下げた。
 足早に立ち去る沢村の背中を、佐々木は凝視した。
 何を………。
 俺は何を期待してたんや、あほやな。
 とっくに………、とっくに沢村は俺のことなんか忘れとおるわ。
 もう何の関係もない。
今更……………………。
 足元がぐにゃりと蛇行しているかのような、憶えのない感覚に、佐々木は慌てて足を踏ん張った。
 ところが膝が笑って力が入らず、崩れ落ちそうになって、佐々木は思わず傍らの斉田の肩に手を置いた。
「佐々木さん?」
「悪い、ちょっとけっつまづいてしもて」
 言い訳をして手を離す。
 たったこれだけのことにさえ、ショックを受けている自分に自分で驚いていた。
 どないしょう、俺…………。
 足が前に進まない。
 心臓さえ動きを止めたかのように。

 


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