好きだから 156

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 良太が店に着くと、既に直子は予約した席に通されていた。
「ごめん、待った?」
「早く着いちゃって。でも、ここ何か高そうじゃない?」
 上は黒のタイトな上着を着ているが、下はレースをふんだんに使った膝丈のスカート、細身の編み上げブーツは厚底。
 相変わらずな直子だが、メイクはナチュラル、華やかな髪も後ろでおとなしめに大きなバレッタでとめている。
「今日は来てもらったし、奢る。直ちゃん嫌いなものなかったよね? もう、予約しちゃってるし」
「え、いいの? 十二月って何かと入り用だし、大丈夫?」
「うん。俺が奢ってもらうこと多いし、気にせず食べようよ」
 良太は笑った。
「んじゃ、ありがとう、遠慮なく」
 胡麻豆腐の先付、大根の昆布締めをはじめ、蟹しんじょ、しし唐、しいたけなどの前菜、たらの西京漬けの後の寿司が美味だ。
 直子はぽつりぽつりと、最近の仕事の忙しさに加え、年明けの大和屋のイベントで、佐々木淑子率いる一門の初釜が開催されるので、その準備がなかなか大変なのだというようなことを食べながら話した。
「先生、先月足を捻挫されたから、しばらく不自由されてお稽古も思うようにいかなかったこともあったりして、先輩のお弟子さんたちもぴりぴりしてたし」
「え? 佐々木さんのお母さん? 今は大丈夫なの?」
「うん。初釜が迫ってきたから、もう上のお弟子さんたちビシバシ怒られて、あたしも最近怒られるようになって」
「え?」
「多分、あたしの思い上がりだけじゃなく、先生って、上達し始めると厳しくなるのよ。佐々木ちゃんはあたしらが帰った後で稽古してるんだけど、最後の人が片付けるから、佐々木ちゃんここんとこ根詰めてるし、できるだけ片付けとかやっとこうと思って、そしたら半端なく指導が入っちゃってるの聞こえて、可哀そう」
 はあ、と直子は大きく溜息をつく。


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