好きだから 159

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 そこへデザートが運ばれた。
「食べよ?」
 直子は頷いて黒文字を手に取った。
口当たりのいい葛切りが熱いお茶によく合った。
「佐々木ちゃん、昨日、八木沼選手のとこ行ってから、今日も変だったんだ。午後からプラグインの打ち合わせ行って、そのまま直帰だったし」
「八木沼のとこって、アディノの? 仕事?」
 また新たな角度からの攻撃かよ?
 良太はお茶を持ったまま、直子を見つめた。
「うん、ほら、水波の逮捕で本谷が代わりにやったスリリングレモンのCM、スポンサーにも好評だったみたいで、そん時の電映社の今西って人、八木沼選手をメインキャラにしたアルコールフリーのビールのCM、強引に佐々木ちゃんに押し付けてさ」
「佐々木さん、でも手一杯だろ、仕事」
「佐々木ちゃん断ったんだけど、今西ってめちゃ押しが強くて、結局押し切られちゃって、今朝聞いたら、アディノの室内練習場に行ったって。でも沢村っちに会えたんなら、ほんとなら今朝だってあんなに苦しそうな顔してぼんやりしてるはずないのよ」
「そう……か」
 喧嘩したとかなら顔合わせづらいよな。
 難しいよな、人の心なんて、他人にはどうしようもないんだ。
「とにかく俺、かおりちゃんや肇に忘年会やろうって言われてて、沢村に連絡取ってみることになってるし」
「うん」
 あいつが誘いに乗ってくれればだけどな。
 会ったらちょっと、活を入れてやる。
 あんまり裏ぶれてっぽいあいつって、みたくねぇし。
 やっぱ、沢村智弘はちょっと自信過剰くらいじゃないとな。
 店を出て直子を地下鉄の入り口まで送ってから、良太はポケットから携帯を取り出した。
「あ、俺。あのさ、来週のどこか時間取れないか? 肇やかおりが忘年会やろうって」
 吐く息が白く広がり、見上げた上限の月は流れてきた雲にやがてかき消された。

 


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