好きだから 160

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巷の喧騒も吹きすさぶ風と雨の冷たさも関係なく、二人のスラッガーは朝から汗を流していた。
「も、俺、うれしぃて、目から涙がどばぁと、はああああ」
しかしウォーミングアップの最中から隣の男のおしゃべりがうるさいことこの上ない。
くっそ、こんなやつと組むんじゃなかった。
沢村はストレッチを続けながら心の中で呟いた。
「したら、パチッと目ぇ覚めてしもて、夢やったんかぁって、はあああああ」
昨日の朝からこんな調子で、うるさい、いい加減にしろ、とどやしつけたらその時はおとなしくなったものの、今朝は今朝でこの通りだ。
「せえけど、もうそれが超リアルで、こういうスイングで振りぬいたらええ、て、佐々木さんが俺の手の上からこう………! 佐々木さん!」
佐々木さんが何でお前のフォームがわかるんだ、バカ大輔!
「あのスイングの感覚! これやて! 俺の中に実感としてあるんや! もう、神神しゅうて女神! やのうて、神や! 佐々木さん! 何で世の中にあんな麗しい人がいてるんや!」
沢村の心の罵倒など思いもよらず、両手を握りしめて天を仰ぎ、八木沼は一人で感極まるように唸る。
佐々木はすごいクリエイターらしくて、八木沼のしでかしたことで佐々木が怒って仕事を降りたりしないようにと、担当が懸命に佐々木の機嫌を取っていた、八木沼がいきなり手を握ったことを平謝りしたら、佐々木は笑って許してくれた、打ち合わせの間中佐々木を眺めていた。
一部始終を八木沼はわざわざ沢村相手に話し続ける。
「夢でフォームがよくなるんなら、ずっと寝てろ!」
沢村が怒鳴りつけても、八木沼は、「正夢やで?!」といっこうに黙る様子もない。


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