好きだから 164

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「仕事をしなけりゃメシも食えないんだ。ホームレスであれモーツァルトなんか聞くより、地道に缶拾いしてなきゃ明日は野垂れ死にだ」
「ホームレスであろうが、モーツァルトも聞けばデカルトも読む。メシが食えなくてもモーツァルトが聞ければよしってのも美学だ」
 呆れて二人を見やった浩輔は隣の佐々木に、「この二人、段々話が低次元になっていくんです」と耳打ちした。
「ショートケーキのイチゴをお前に取って食われて泣いていた和也にそのごりっぱな美学とやらを聞かせたいもんだ」
「あれは俺のモンスターカードと和也のイチゴをトレードしただけで、勝手に和也が泣いたんだ。大体、年長さんの康太郎クンらのグループをタコ殴りにして、お菓子をせしめてたのは、どこのどいつだ?」
「最初に守や栄太から腕ずくで取り上げたのは康太郎らだ。弱肉強食ってのを叩きこむのに最適なのが幼稚園なんだ」
既に会話から離れた三浦は、いつものことと気にする様子もなく食べるのに専念している。
 手の付けられない会話が展開されているオフィス内に電話が鳴り響いた。
「プラグインでございます」
 即立ち上がって電話を取った浩輔が振り返った。
「藤堂さん、芝アートプランニングさんからです」
 藤堂が電話に出ると、次元が底辺まで落ち込んだ会話が途絶え、オフィスに平穏な空気が蘇えった。
 みんなが食べ終わり、お茶を入れ直した藤堂がみんなの茶碗にお茶を注ぐと、河崎と三浦はまたそそくさと打ち合わせに戻った。
藤堂は椅子に腰を下ろして、熱いお茶を一口すすると徐に佐々木に言った。
「佐々木さん、誰か、それなりの腕のカメラマン、知りませんか?」
「カメラマン、ですか?」
「そう、人物とか、それなりに撮れるような」
「うーん、知り合いなら何人かいますけど」

 


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