好きだから 173

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 襖を開けて入ってきた大柄な男は、「何だ、お前だけか?」と良太を見下ろしながらコートを脱いだ。
「おう、沢村、早かったな。かおりちゃんも肇も残業でちょっと遅れるって」
 週明け早々の月曜日、良太は沢村もいるのでなるべく騒がれないようにと思い、たまに行く西麻布にある小料理屋の二階をこの忘年会のために借りた。
「生二つと刺身の盛り合わせに海鮮サラダ、串焼き盛り合わせ、マグロのしぐれ煮、ふろふき大根」
 早速オーダーを取りに来た店のスタッフに、沢村がたったか注文する。
「あれ、その手、どうしたんだ?」
 隣に座って胡坐をかいた沢村の右手のテーピングに気が付いて、良太は怪訝な顔を向けた。
「ああ、大したことないさ。ちょっとした突き指。注意力散漫、自業自得だ」
 明らかに捻くれた物言いだ。
「俺さ」
 沢村は言葉を切った。
「何だ?」
 ちょうどビールジョッキとお通しが並べられると、二人だけで乾杯するや沢村はごくごくと半分以上飲み干した。
「今年は一冠も取れない気がする。きっとシーズンオフにはトレードだなんだと持ちあがるから、いっそ引退してサバサバしようかと思って」
 初っ端からの爆弾発言に、良太は開いた口がふさがらない。
「モチベーション、ダダ下がりだし、ニューヨークでウイルソンとの会社に永久就職するかなとか」
 あああああっ!!! 何を言い出すかと思えば、こいつはよ!!!!!
 良太は果てしない疲労感をもって頭を抱えた。


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