好きだから 197

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 佐々木も浩輔もちょっと驚いて藤堂を見つめた。
 そもそもが無理難題だった。
 朝一番に藤堂から連絡を受けた佐々木は耳を疑った。
 既にあと少しで終わるはずだった東洋不動産のCMプロジェクトが、ここにきて上からクレームが入ったというのである。
 散々細かいやり直しなどをさせられたのだが、佐々木もいい加減脈絡のない指摘にイラついていた。
 迎えに来た藤堂と一緒に東洋不動産の広報部を訪れると、担当の石島だけでなく、広報部長我孫子までが顔を見せた。
 眼鏡をかけた肉付きのいい、頬が落ちてブルドッグ風な顔の中年の男だ。
 最初にこの仕事に携わった際に眼鏡の奥の窪んだ眼でじっと自分を見たこの男を、佐々木はあまり近寄りたくない部類だと寸時に判断した。
「ここにきてこういうことを申し上げるのは大変心苦しいのですが」
 上の方から、と前置きして我孫子は背景がニューヨークだけでなく、日本でのシーンもやはりほしい、ターゲットは日本のお客様なので、などと言い出した。
 納期ぎりぎりの状態になってからしかもこの年末のただでさえどちらを向いても慌ただしいこの時期に、制作会社やその他諸々のスタッフの確保など不可能に近い。
「もちろん、必要経費はご請求くだされば」
「いや、そういうことでなはないでしょう。それだけの変更要求を今ここでされるというのは」
 明らかに理不尽な無茶振りに対して、常に穏やかでほんわかムードな藤堂がいつになく憤然とした表情を我孫子に向けた。
「やはり既定路線でないと難しいですかな」
 またしても抑揚はなくとも挑発的な言葉に、藤堂は怒気を含んだ眼差しで我孫子を睨みつけた。
「猶予はどれだけいただけますか?」

 


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