好きだから 2

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 沢村と初めて会ったのはちょうど一年前のハロウィンの夜だった。
 らしくもなく精神的に下り坂だった。
 そんな時に一人で深酒はやめた方がいいな。
 佐々木は苦笑いする。
 かなり酔っていたからだ。
 でなければ見知らぬ男と気安くべらべらしゃべったりしないだろう。
 ましてや行きずりの相手と寝るなんて。
 佐々木の性分として、一緒にベッドに入るなら、どれだけかの時間を共有し、心を許しあった相手のはずだった。
 行きずりの、しかも男となんて、しかもしかもトモとしか名乗らなかったその男と恋に落ちるとか、今考えてもあり得ないだろう。
 どころか、その恋に溺れるなどという感覚を身をもって知らされるなど、考えも及ばなかった。
 そのあり得ないことはハロウィンの一夜限りのラブアフェアに終わらず、未だに現実として歴然と、仕事以外の佐々木の大部分を支配していると言っても過言ではない。
 初めは鷹揚で達観している大人で、佐々木を今の仕事に引き込んだジャストエージェンシーの社長春日のようにも思っていたところが、一歩踏み込めば何のことはない、時折駄々こねする幼児かというようなところもある傲慢でわがままなおぼっちゃまだった。
 でなければ、佐々木が税金対策で売ることにした土地を知らないうちに買い、しかも今度はそこに家を建てるとか、それこそあり得ないだろう。
 土地の件については、良太や直子やほかの面々も巻き込んで一旦は決着をつけたものの、家を建てる云々についてはまだはっきり当人から聞いたわけではなく、たまたま耳に入ってしまったことだった。
 無論土地を買ったものがそこに何を建てようとその人の自由なのだが、佐々木にとってはその人間が誰なのかが重要な問題なのだ。
「ったく、何を考えてんのや、沢村のやつ」
 ついつい歩きながら口にしてしまう。


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