好きだから 208

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「それな、俺も、手ぇ握った時は女神や思てん。したら男やて、もうあない麗しい人が男とか信じられへんかってん、はああ。ほんまにもう、夢では何度も出ててくれはったんやけど、リアルな佐々木さんに会いとうて会いとうて」
 ここのところ溜息をつく回数が異様に増えている気がする良太は、次の言葉がもう出てこないような気がした。
 ええと、何、佐々木さんは、スラッガーの前に姿を見せたらダメとか?
 何かわけのわからないことを良太は心の中で呟いた。
「すみません、個人情報なので。また仕事のスケジュールが決まったら、会えるんじゃないですか?」
 ようやく淡々と常識的な言葉を探して八木沼を見た。
「ちょお、けち臭いこと言わんと頼むわ。昨夜、絶対今度こそ、麗しの彼女、やのうて、麗しの彼氏を紹介したる、て、球団の仲間の前でタンカ切ってきたんや」
「はああああ? 彼氏って………」
 球団の仲間? こいつって、何者?
 良太は呆れるを通り越して、この大胆だかバカなんだかわからないこの男を見つめた。
「春に、ファンの可愛い女子大生に告った時は、見事にごめんなさいされてしもて、やから、みんなも応援してくれるいうて」
 その時、八木沼はペシッと頭をはたかれて、「てっ! 何すんね!」と振り返った。
「能天気なお仲間の前で、お前、佐々木さんの名前、出したんじゃないだろうな?」
 タオルを首にかけてバットを持ったまま、凄味のある声で沢村は八木沼を睨みつけた。
「な、何やね、怖い顔してからに。な…名前とかは言うてないわ」
「ほう? ぼんくら頭でもそのくらいの気遣いはできたのか」
「そういう人をこき下ろすいう態度やから友達できひんの違う?」
「事実を言ったまでだ」
 唇をつんととがらせ眉を顰めて、八木沼は沢村を上目遣いに見やる。

 


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