好きだから 209

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 八木沼に対して佐々木のことを何も言わない沢村の心を良太は慮った。
「あっと、今日は割と調子よさそうじゃん」
 良太は恐る恐る二人の間に割って入る。
「軽くやったってこの程度はあたりまえだろう。地の底はまだ遠いな」
 一体どうなっちゃってんだよ、な展開についてはこの際触らないようにして、また捻くれたことを言う、苦虫を噛んでますという顔の沢村に、良太は続けて尋ねた。
「えっと、正月特番四日のことなんだけど、八木沼さんらの後に、二冠の沢村とホームラン王のスワローズ山本との対談ってことで大丈夫か?」
「安心しろ。対談でいきなりシーズン終了後には引退とか言わねぇし」
「っ! 沢村っ!」
 またぞろ焦らせるようなセリフに気が気ではない良太が何か言おうとした時、沢村のバッグの中で携帯が鳴った。
 沢村はかったるそうにバッグの中から携帯を取り出した。
「はい。何だよ。トレーニング中だ。ああ?」
 電話に出た沢村の顔は次第にまた不機嫌そうに変わる。
「ああ、わかったよ。また連絡する」
 渋面を崩さぬまま携帯をバッグに入れる沢村に、「えらくぞんざいな対応だな」と、良太はつい口にする。
「母親。マスコミにくだらないことを言われっぱなしだから、やたら電話とかしてきやがって」
「心配してるんだろ」
「今更、ずっと放りっぱなしだった息子のことなんか構ってねぇで、自分のことだけ考えてりゃいいんだ」
 ぞんざいな対応でも、沢村なりに母親とは関係を絶ったりするつもりはないようだ。
「安心しろ。特番、ホームラン五〇本打ちますとか言っとくさ」
「ったく、有言実行だからな!」

 


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