好きだから 210

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 沢村に念を押してから、何気なく八木沼を見ると、ほけっと座ったまま視線は宙をさまよっている。
「しっかし、いいのかよっつうくらいあけっぴろげっつうか、八木沼選手って」
 大らかで人好きのするキャラなのだ。
「フン、俺もあのくらい軽けりゃ状況はまだ違ってたかもな」
 自嘲する沢村を見て、確かに対照的なキャラではあるがと良太は眉を顰める。
「今、佐々木さん、仕事でちょっときついらしいんだ」
「え?」
 沢村は良太を凝視した。
「うちの忘年会にも出席予定だったんだけど、クライアントが面倒なこと言ってきたらしくて、藤堂さんと制作会社に詰めてて、お前らが帰った後に二人できてくれたんだが」
「………その面倒な仕事、終わったのか?」
「ちょっと息抜きに来てくれただけで、間に合うか合わないかってとこらしい。ほんとは佐々木さんただでさえ仕事タイトなのにイレギュラーなスケジュールになって、数日で京都と北海道ロケとかめちゃな強行軍で」
 沢村は思わず息をのんだ。
「………大丈夫なのか? 佐々木さん」
「直ちゃんも心配してるけどな。佐々木さん、やると言ったらやるって人だから」
「………まあ、俺にはどうしてやることもできないし……」
 むしろ佐々木さんの癇に障るくらいが関の山だ。
 沢村はそんな自分への苛立たしさを振り切るように走り出した。
 声、笑い、仕草、髪の色、肌の熱、もうずっとあの人の何もかもが頭の中にいっぱいなんだ。
 あの人は俺の手を振り払って、もう触れることすら許してくれない。
 俺には、何もできることなんかない。
 何か俺、どこもかしこもバッキバキだ。
 くそっ!

 


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