好きだから 212

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 暑い雲が東京中を覆い、夕方になるときつい風がビルの間を吹き抜けていた。
「さ…む……」
 辺りが暗くなり、街に明かりがつき始めた六時頃、オフィスササキのドアが開いた。
「佐々木ちゃん! おかえりなさい!」
「ただいま…」
 画面から目を上げた直子は、佐々木の姿を認めるや駆け寄って、佐々木が緩慢な動作で脱いだコートやマフラーを受け取ると、デスクの後ろのハンガーにかけた。
「今、お茶いれるね」
 佐々木が自分の椅子にぐったりと腰を下ろすと、直子はバタバタとキッチンに消えた。
 何日ぶりかも考えるのが面倒なくらい、久々のオフィスである。
 直子が入れてくれたミルクティーを一口飲むと、はああ、と息をついて、「生き返るて、このことやな」と呟いた。
「それで東洋不動産、終わったの?」
「まあ、何とかギリで今しがた納めてきたとこ。あとは向こうさんの出方次第や。元々広報部長が他社と手を組んどったわけやから、否と言われる可能性もありやけど」
「ヤなやつだね、その部長って」
「けどな。つい、藤堂さんが何か言う前に俺、熱うなってしもて、没になったら申し訳ないし、請求もでけんな。造るからにはクオリティ下げとうはないしで、藤堂さんを振り回してしもた」
 佐々木がきつい仕事でも手を抜くことができない性分故に、必要以上の疲労を溜め込んでしまうのは、直子も傍で仕事をしている浩輔もよくわかっていたし、古巣のジャストエージェンシーでは、春日の庇護の元、佐々木の状態に合わせて仕事を割り振ってもらっていので、ここまで佐々木を追い込むようなことはなかった。
 ただ、直子には佐々木が仕事だけのことで今の状況になったとは思えなかった。

 


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