好きだから 213

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 沢村のことが佐々木を精神的にも追い詰めているに違いない。
「あとは野となれなら、佐々木ちゃん、今日は帰ってゆっくり休んだら?」
「うん………そうしたいとこやけど、大和屋の放りっぱなしやし、やれるとこまでやっとかないと」
 そう言うと、佐々木はマシンを立ち上げた。
「え…………」
 直子はしばし言うべき言葉がみつからなかった。
 ここで佐々木に休めといったところで、暖簾に腕押しだろう。
「そう……じゃ、何か手伝うことあったら何でも言って? 時間とか全然大丈夫だし」
「おおきに。でも、八時くらいまでには帰るつもりやし、気にせんと。あ……なんか、音、聞きたい。こう、没頭できる、みたいな。直ちゃんのおススメ、ある?」
 佐々木がこんなことを言い出すとはよほどのことだと直子は疲れた佐々木の顔を見つめた。
「うーん、直はうるさいのの方がかえって集中するけど、佐々木ちゃんの神経宥めてくれるみたいなのは、ピアノ曲とか、やっぱモーツァルトとかがいいと思うよ。こっちのPCで流そうか?」
「モーツァルトいう気分やないなあ。眠ってしもてもな。直ちゃん俺の車に入れとったやつ、ああいうのでええよ」
 そう言って笑う佐々木に、直子はアッと思い出した。
「わあ、ごめん! 前に佐々木ちゃんの車使った時、あのままにしちゃったんだ」
「いやあ、何やスカッとしたよって、うるさいのでお願い」
「ほんとにいいの? 超うるさいよ?」
「どんなやつ?」
「おじさんたちがガンガン弾けてるやつ」
「おじさんたち?」
「まあ、ルックスとかはどうでもいいんだ。かなり長いみたい、活動期間」
 直子は自分のMP3プレーヤーのイヤホンを佐々木に貸した。

 


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