好きだから 226

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 オフィスのドアを開けるとひんやりとした空間に、ツリーのイリュミネーションだけが佐々木を迎えた。
 データを上げてそのまま制作会社に向かったので、キッチンにはマグカップがそのままになっている。
 洗っておかなければと思いながら、さっきから身体中がだる重い感じで足元もおぼつかないようで、ちょっと休みたくて、佐々木は奥の部屋のドアを開けた。
 滅多に使わないこの部屋は、春日が書斎としてデスク、ソファセットを置いてくれていたが、ソファは背もたれを倒せばベッドとしても使えるようになっている。
 だが、背もたれを倒すのも億劫な気がして、明かりもつけないまま佐々木はとにかく身体を横たえた。
 どのくらい時間が経ったかわからなかった。
 上着のポケットで携帯が鳴っていた。
 目を開けるのが億劫で、出なければまたかけてくるだろうと放っておいた。
 一度切れた電話は再びコールし始めた。
 佐々木は緩慢な動作でポケットから取り出すと、出ようとした途端留守電に切り替わった。
 もしやまだ返事を受け取っていない東洋不動産の件かも知れないとは思ったが、この際、没であろうが何であろうがもうどうでもよかった。
 それにまさかこれ以上のやり直しはやる気はもうとうなかった。
「藤堂さんにまかせますよって」
 ブツブツと独り言を口にしてまた瞼を閉じたが、しばらくするとやはり気になって身体を起こすと、携帯の留守電を再生した。
「佐々木さん、俺だ」
 耳に飛び込んできたその声を聞き間違えようがなかった。
「話したい。俺は別れるつもりなんかない。今夜あんたの家に行く」
 


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