好きだから 227

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 一気に佐々木の脳は覚醒した。
 会いたい、と心の奥で叫ぶ自分がいた。
 会いたい…………
 だが逡巡する間もなく、佐々木はその声に蓋をした。
 携帯で呼び出したのは別の人間だった。
「今日、忙しい?」
「ああ? 世の中クリスマスイブって知らないのか?」
 笑いを含んだ低い声が言った。
「あれ、稔さんやったら空いてるかと」
「…るさいな!」
「健斗と会うんだ?」
「まあな。俄かサンタは忙しいんだ」
「あ、そういえば仕事中やったっけ?」
「今頃言うな。診療は午前中で終わった。午後はかかりつけの患者が来るくらいだ」
 椅子のギコギコいう音が聞こえているので、まだ診療室にいるらしい。
「そうか、まあ、稔さんはサンタ頑張り。それより、手塚家の山荘、今も健在?」
「山荘? ってああ、蓼科のボロ小屋か? ガキの頃、お前も何回か行ったな」
「あれ、今日とか使わへんかったらちょっと貸してほしい思て」
「おお? 何だ? ロマンチックを求めるにはちとボロすぎるぞ?」
「そんなんやない。ようやっと仕事一段落で、ここんとこ身体酷使し過ぎたよって、どこか都会の喧騒から離れたとこで一人でゆっくり休みたいね」
「一人い? うーん、まあ、オフクロに聞いてみっから、折り返しする」
 電話を切ってコールを待つ間、指が震えているのに気づいた。
 咄嗟の思い付きで、頭は何も考えてはいなかった。

 


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