好きだから 228

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 佐々木家も父親が健在の頃はどこぞに別荘などもあったらしいが、淑子も佐々木も一度も連れて行ってもらった記憶はなく、どうやら父親が女と遊ぶのにたまに使っていたようだが、相続税の問題で弁護士に勧められて売ってしまった。
 実際もしあったとしても、自宅だけでも手入れなどもてあましているのに管理などできようはずはない。
 ホテルでもよかったのだが、イブに予約が取れるとは思えないし、ただ一人でいられるところならどこでもよかったのだ。
 家にいたら、沢村が来たら、ただでさえ疲労困憊な状態では流されてしまう。
 何で………今更…………
 佐々木は重い身体を引きずるようにして部屋を出た。
 手の中の携帯がコールした。
「おう、使えるってよ。オフクロに聞いたら、最近リノベーションして、たまにオフクロが使ってたみたいだぜ。鍵渡すから、こっち来られるか?」
「わかった。おおきに」
 再びオフィスを施錠すると、駐車場に降りて数日置きっぱなしだった車に乗り込んだ。
 家に着いてガレージに車を入れていると、また携帯が鳴った。
 番号を確かめると家の電話からだった。
「はい、あ、ええ、今、帰りました。それが、これからまた一仕事あるので、はい、日曜の稽古には何とか」
 案の定、車の音を聞きつけた淑子が、いつ稽古に出られるか尋ねてきたのだ。
 疲れているのでなどとは淑子には通用しなさそうなので、すかさず嘘をついた。
 必要なものを適当に最近買った軽いナイロン記事のバッグに詰め込み、車のキーを手にしてから佐々木は二時間半ほどの運転は無理そうだと判断し、キーをテーブルに置いた。
 ロングベンチコートにマフラー、帽子に冬用のトレッキングシューズを履いて、生垣の裏木戸から通りに出た。
 きつい北風に思わずマフラーを口元まで上げると、疲れた身体に鞭打つようにして手塚医院へと歩いて向かった。

 


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