好きだから 239

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 辺りは既に薄闇に包まれていた。
 時折強い北風が通り過ぎるのだろう、窓越しに木立が揺れている。
 一番町にある佐々木家の生け垣に車を横付けしていた沢村は、電話を切るとすぐ定宿にしているホテルへとハンドルを切った。
 トレーニングを終えてすぐオフィスササキのビルに向かったが、オフィスは明かりが消えていたので、佐々木の家に来てみたのだ。
 車があるのを確認して携帯に電話をしたが、出たのは佐々木ではなかった。
 目一杯仕事に追われていたらしいことは、良太からも聞いていた。
 そういえば、去年も一度佐々木が熱を出したことがあった。
 疲労が重なったのだろうと、手塚が言っていたが、自分が佐々木を追い詰めたせいもあるのだろうと、沢村には忸怩たる思いがあった。
「あのやろう! 人を試すみたいなこと言いやがって!」
 いずれにせよ手塚という男の言いぐさは今思い返しても腹立たしい上に悔しい。
 何より佐々木を連れて蓼科にいるということ自体、腸が煮えくり返る。
 一旦、気を落ち着かせると、蓼科あたりにいくつもりならこんなデカい車はないだろうと思う。
 夏に佐々木を連れて信州に行く前に、山荘に置いていた古いランドクルーザーをSUV車、GLS200に乗り換えた。
 スキーにも行くつもりでスタッドレスも履かせているし、とにかく車を変える必要があった。
 ホテルの駐車場に車を入れてすぐ、ポケットの携帯が鳴った。
「かあさん? 今ちょっと忙しい。……え、ラウンジに?」
 母親がホテルのラウンジにいて、明日から東京を離れるので、少しだけ話せないかと言う。
「何だよ、一体」
 沢村は部屋のナンバーを教えて直接来るように言うと、足早にエレベーターに向かった。
 手早くスーツを脱ぎ捨てて手近なセーターをかぶり、ジーンズに履き替え、すぐにも出かけられるばかりになった頃、ドアがノックされた。
「ごめんなさい、急に」


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