好きだから 241

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 神戸の従姉弟たちに対しての方が少なくとも実の兄によりは情があるかもしれない。
「沢村が判を押すかどうかは知らないけど。いずれにしても紙切れ一枚の契約なんて、私には無用のシロモノよ。梶田とは一緒に歩いていくつもりだけど、結婚とかには執着しない」
「それもいんじゃね? 母さんのやりたいようにやれば」
 沢村は話はもう終わったものと、ドアへ向かう。
 だが、一緒に部屋を出てすぐ、彰子の言った言葉に、沢村は振り返った。
「佐々木さんておっしゃるのね、箱根の坂下さんから聞いたわ。今、お付き合いしてる方なのね?」
 坂下君江は箱根の別荘を管理している女性で、沢村とも子供の頃からの顔なじみだ。
 前々から沢村が気に入っているらしいこの別荘を沢村名義にするとも彰子は話していたのだが。
「こないだ、少しお会いしたの。すてきな方ね」
 自分の顔が険悪になっていくのを沢村は感じていた。
「あんた、佐々木さんに何言ったんだ?! いいか! 金輪際俺に構うな!」
「え、智弘、待って!」
 沢村は母親を残してたったか駐車場に降りた。
「クソオヤジの次は母さんかよ! ったく、放っとけよ!」
 カッカきて車に乗り込みドアを乱暴に締めた。
「それにあの手塚って野郎!」
 それでもエンジンをかけてから、「クッソ、クールダウンだ」と呟いた。
 これで事故ったりしたらいい笑いものだ。
 手塚が山荘からコンビニなどは遠いと聞いていたので、中央道に入ると談合坂のサービスエリアに立ち寄り、弁当やらパンやら飲み物やらとレトルトのスープなどと一緒にバナナを見つけて買い込んだ。
 沢村は車に戻って一息ついてから、本線に入るとぐっとアクセルを踏んだ。
 

 


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