好きだから 248

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 しばらくそうしていると、沢村がすうっと眠りに落ちたのがわかった。
「……うう……夢、見たのか……」
 はあ、と沢村は佐々木から離れてがっくり項垂れる。
 熱出した時って、なんか嫌な怖い夢とか見るんだよな。
 子供の頃風邪を引いたりすると熱を出しては何かに追いかけられるとか、大きな川に落ちそうになるとか、恐ろしい夢ばかり見ていた。
 母親が看病してくれたような記憶はなく、物心ついた頃から大抵医者が往診に来て、一人で寝ていた。
 だから小学校に上がってから風邪気味だったりすると、一人で病院に行って診てもらって薬をもらってくるような子供だった。
 何でも一人でやるようになったのはその頃からだ。
 人より成長が早いというか、身体もすぐでかくなったので、余計に可愛げのない子供だったのは確かだ。
 八歳年上の兄はひょろっと痩せ気味で、既に小学校六年生の頃には沢村の方が身長も追い越して一八〇センチ近かった。
 兄は風邪などひこうものなら大騒ぎして周りに甘え、父親が気にかけて家政婦らにああだこうだと指示していたのはよく覚えている。
 その頃には父親が明らかに兄だけを可愛がっているというのはわかっていたし、母親は無関心で、家には沢村の味方など一人もいなかった。
 父親が愚弟賢兄とはよく言ったものだが、沢村が兄より成績で負けたことなどは一度もない。
 あれだけ野球で騒がれながらも大学の卒論ですら手を抜くことはなく、それはもう沢村には意地でもあった。
 そんな出来過ぎた弟に対して兄は敵対心をあらわにしていたが、結局父親にすり寄ることしかできなかったのかも知れない。
 つまらないことまで思い出した自分に沢村は胸糞悪くなって、佐々木に毛布を掛け直した。
 そのうちうつらうつらしていた沢村は座ったまま横になって眠ってしまった。
 はたと、身じろぎする空気に気づいて目を覚ましたが、眠っていた佐々木がいない。

 


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