好きだから 251

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 佐々木の喉を見てから、インフルエンザの検査をして熱を測り、内村医師は手塚と同様のことを言った。
「え、あの、点滴とか、薬とか、いいんですか」
 診察を終えるとそそくさと玄関に向かう内村医師に、沢村は尋ねた。
「風邪に点滴とか無暗にやってもあんまりねえ。もし、鼻水とか、頭痛とか、そういうのには、テーブルに置いてある薬を飲んでみなさい」
 屈強そうな手塚とは違って、ごく普通の体格の、インテリっぽい眼鏡の医師は穏やかに笑い、続けて言った。
「手塚からちょっと顔が知られてるやつが看病してるから往診してくれって言われて、芸能人でもいるのかと思ったけど、まさかタイガースの沢村選手にお目にかかれるとは思わなかったよ。自主トレとかなんか?」
「……はあ」
「いや、もちろん口外したりはしないから。つい、嬉しくて。俺も手塚も野球ファンで、海外にいる時はネットとかでプロ野球情報見て二人で盛り上がってた」
 人のよさそうな笑顔を向けて内村医師は乗ってきたハッチバックのドアを開けた。
「まあ、もし、また症状が気になったら電話して。おっと、もう行かないと。何せ一人でやってるからね」
「ありがとうございました」
 雪道を走り去る内村医師の車を見送ってから沢村は屋内に戻り、寝室を覗くと佐々木は察知したかのように目を開いた。
「俺、何か食うけど、スープとかでも食べられない?」
 沢村は隣のベッドに座って尋ねた。
「…いや……」
 沢村はまた眼を閉じた佐々木を見て寝室を出ようとした。
「……ちょお、待て……」
 急に佐々木に呼び止められて沢村は振り返る。
「……何でお前が、ここにいてるんや?」
「夕べ、手塚センセとバトンタッチしたんだ」
「……んん……」

 


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