好きだから 260

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 翌朝、ほとんど力の入らない、というよりもムスッと口も聞かず不機嫌な佐々木をシャワーに連れて行ったり服を着せたり、沢村は下僕のようにかいがいしく世話をやいた。
 ルームサービスで朝食を済ませたあと、佐々木に靴も履かせて出かける用意をしてから、手早く自分もトレーニングウエアを着こみ、部屋を出た。
「病み上がりの人間にあないしつこう、やるか?!」
 車がホテルの駐車場を出てからようやく、佐々木が言った。
「しょうがないだろ、佐々木さん、俺のこと拒否ッてた分、嬉しくてつい、な」
「何がつい、や。大体お前がオヤジさんのことかてコソコソ、小芝居うったりしよるからや」
「あれ、何? ひょとしてアスカさんとか妬いたりしたとか?」
「アホか! 誰が妬くか!」
 うっかりむきになってしまってから、佐々木は眉を顰める。
 アスカのことはわかっていたにせよ、やはり沢村が誰かと婚約かなどという記事は面白くはない、とは口が裂けても言わないが。
「悪かったよ。クソオヤジの件は片が付いたんだ。そもそも俺の失言が原因だったし、佐々木さんきっと怒ると思って、隠してたんだ。アスカさんや良太にまで散々バカバカ言われたんだ。もう勘弁してくれよ」
 ハンドルを切る沢村が珍しく神妙な顔をした。
「あのさあ、もういろいろ複雑に考えすぎるんだよ、佐々木さん。俺が野球やってようがいまいが、人が何て言おうが関係ないんだって。俺があんたを好きで、あんたも俺が好きだろ? ただ一緒に生きて行けばいいだけじゃん」
 佐々木は溜息をついた。
 素直にうんと言えればとっくに言っている。
「俺はあんたと離れて生きるとか、考えられねぇし」
 信号で止まった途端、沢村がきっぱり過ぎる声で言った。
「俺もや」
 車が動き出した時、佐々木はぼそっと言った。
「え?」

 


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