好きだから 261

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 沢村が佐々木を振り返った。
「アホ、前見て運転せい」
「騒音でよく聞こえなかった!」
「また、次赤やで」
 沢村はフロントガラスの向こうを睨みつける。
「何でこんな混んでるんだ! それより、あんた、何で、わざわざ手塚センセなんかと、神宮行ったんだ?」
「今頃そんなん、そういえば本物の野球てみたことない思て、稔さんは生粋の野球ファンやから、連れてってくれたんや」
 本当を言えば、別れを決意した後で、沢村のゲームくらい見ておくべきだったと後悔したからだが。
「神宮行って、それから八木沼選手のCM関連で自主トレ見た時、俺はとんでもないアホをやらかしたことに気が付いた。お前のCMで」
 いきなり車線変更した前の車にイラつきながら、沢村は赤信号でブレーキを踏む。
「俺の? えらく評判いいって喜んでんじゃねえの? アディノの連中」
「悪うはなかったかも知れへんけど、俺は本物のお前を見もせんと、グリーンバックの前でスイングさせてしもた。音も迫力もまるでちごたんや、愕然としたわ」
「なるほど? だったら、CMとかじゃなくてもいつでも見せてやるぜ?」
「これを教訓に、八木沼選手のCMは臨場感溢れたやつにするつもりや」
 佐々木は笑った。
「何だよ、それ! ようし、わかった」
 六本木通りに入って一番町に向かうはずだった車は、いきなり首都高に入った。
「おい、どこ行くんや?」
 約二十分ほどで着いたところは、東京郊外M市にあるアディノの屋内練習場だった。
 屋根はドームになっており、夜間や雨天、冬のトレーニングにも対応する最新式の練習場だ。
 足を踏み入れた途端、カーン、と小気味よい音でボールが屋根近くまで飛んで行った。
「あれ、沢村、遅れるんやなかったんかいな」

 


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