好きだから 262

back  next  top  Novels


 練習場の中へと連れていかれた佐々木は、記憶にある人懐こそうな笑顔を向ける大柄なスラッガーが佐々木に気づいた途端、うっと言葉を飲み込んだ。
「佐々木さんやないか! 何で? あれ、仕事で? 俺に会いに来てくれたん?」
 大型犬よろしく、ちぎれんばかりに振る尻尾が見えるかのように、バットも放り出して八木沼は佐々木に駆け寄ってハグした。
「あ、いや………」
 おい、どういうつもりだ、と佐々木は沢村を睨みつけた。
「ようし、そこまでだ」
 佐々木に懐いていた犬の首根っこをぐいと佐々木から引きはがすと、沢村はその耳元で言った。
「はっきり言っておく。いいか、佐々木さんはもうずっとずーっと前から俺のもんだ! わかったか?」
「は? え? 何? どういうことやね?」
 八木沼はきょとんと沢村を見つめる。
「わっかんねぇやつだな、佐々木さんは俺のもんなの! 第一お前が佐々木さんに言い寄ろうなんざ千年早い!」
 それから再びぽかんとしている八木沼を引き寄せて耳打ちした。
「あと、佐々木さんが俺のもんだとか、お前の仲良しなチームメイトだけじゃねぇ、誰にもぜってぇ言うんじゃねーぞ! 言ったら殺す! わかったか?!」
 沢村は八木沼を離すと、「佐々木さん、送ってくる」と言い残し、佐々木を促して練習場を出た。
「うっそやあああああああああっ!!!!!!!」
 八木沼の絶叫は練習場の外にまで響き渡った。
「お前、何で八木沼にあないなこと言うた!」
 車に乗り込むなり、佐々木は問い詰めた。
「ちゃんと釘を刺してやっただけだろ。佐々木さんだって困ってたじゃないか」
 しれっと沢村は言いきった。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ