好きだから 265

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「せっかくお掃除が早く終わったのですから、周平、お稽古しまひょ」
 淑子がのたまった。
「沢村さん、あなたも茶席の入り方くらいちゃんと覚えなさい」
 佐々木はしばし動く気力がなかった。
「周平、早う着替えて用意しなさい!」
「クソオカン………」
 自分はほとんど指図するだけで、花を生けただけの淑子の後ろ姿に、佐々木は小声で悪態をついた。
 沢村はくすくす笑いながら、佐々木を促して茶室へと向かう。
 それでも手早く着物に着替えると、その間に沢村が熾してくれた炭を炉に入れた。
 淑子はトレーニングウエアを脱いで茶室に向かった沢村にも容赦はなかった。
 扇子を持った茶室への入り方、床の間の拝見の仕方、席の座り方、足の運びまで、きっちり指導する。
 菓子器に干菓子を並べて沢村の前に置き、佐々木はさすがに沢村を気の毒に思いつつ薄茶を点てた。
 釜がしゅんしゅんと音をたて始めると、茶室に浄化されたかのような空気が漂う。
 佐々木が点てた薄茶を取りにいって座り、挨拶をする。
 沢村は淑子に言われる通り何とかこなす。
「大変おいしゅうございます」
 お茶を飲んだ沢村がかしこまって挨拶するのに、佐々木はぐっと笑いを堪えた。
 沢村は淑子に言われた通り茶碗を戻すと、改めて座り直す。
「お道具の拝見を」
 佐々木が茶杓と棗を袱紗で清めて畳の上に並べると、沢村はそれを取り込み、道具について棗の塗り、茶杓の作や銘などを問う。

 


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